ゾクゾクとした寒気がして、肩や首のあたりが妙にこわばる。でも汗はまだかいていない――。そんな「風邪かな?」という初期段階で名前が挙がるのが葛根湯です。ドラッグストアでも医療機関でも扱われる、日本でもっとも知られた漢方薬のひとつですが、「いつ飲むのが適切なのか」「西洋薬の風邪薬と何が違うのか」を説明できる人は意外と少ないものです。
この記事では、葛根湯に期待される効能・効果から、飲むタイミング、副作用、麻黄湯・桂枝湯との使い分け、市販薬と処方薬の違いまで、体調が気になったときの判断材料になる情報をまとめました。麻黄湯・桂枝湯との詳しい比較は、当院の桂枝湯・葛根湯・麻黄湯の違いに関する記事でも紹介しています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、効果を保証するものではありません。当院は鍼灸院であり、漢方薬の調剤・処方・販売は行っておりません。持病がある方、他の薬を服用中の方、妊娠・授乳中の方、体調に不安がある方は、服用前に医師または薬剤師にご相談ください。
1. 葛根湯とは?7つの生薬からできた風邪のひき始めの漢方薬
葛根湯は、葛根(かっこん)や麻黄(まおう)など7種類の生薬を組み合わせた漢方薬です。体を温めて発汗を促す働きから、風邪の初期症状の緩和が期待されている処方として知られています。中国の古典医学書「傷寒論」に記載がある、漢方薬の中でも歴史の長い処方のひとつで、日本では市販薬としても医療用医薬品としても幅広く使われています。
傷寒論に由来する歴史の長い処方
葛根湯という名前を知らなくても、「風邪のひき始めに飲む漢方」というイメージを持っている人は多いはずです。この処方は2000年近く前の中国の医学書にすでに記載があり、時代を超えて使われ続けてきた組み合わせだという点が、他の新しい配合の薬とは少し違うところです。
構成される7つの生薬とその役割
葛根湯には、葛根・麻黄・桂皮・芍薬・生姜・大棗・甘草という7つの生薬が配合されています。漢方的な考え方では、葛根は首や肩のこわばりを和らげる働き、麻黄と桂皮は体を温めて発汗を促す働き、芍薬は筋肉の緊張を緩める働き、生姜と大棗は胃腸の働きを支える働き、甘草は他の生薬の働きを調和させる働きを担うとされています。
それぞれの生薬が単独で作用するのではなく、組み合わさることで全体のバランスを整える、というのが漢方薬の基本的な考え方です。
風邪以外に肩こりや鼻炎にも使われる理由
葛根湯は風邪薬というイメージが強い一方、肩こりや筋肉痛、鼻炎にも使われることがあります。これは、体を温めて血の巡りを促す働きが、風邪の症状だけでなく、こわばりや冷えが関係する不調にも活用できると考えられているためです。実際に、鼻炎の症状が強い人向けに生薬を加えた「葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」という処方も存在します。
2. 葛根湯に期待される効果・効能
一般用漢方製剤製造販売承認基準などに基づく代表的な記載例として、葛根湯の効能・効果には「体力中等度以上のものの、感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み」などが挙げられています(製品ごとに記載は異なる場合があるため、実際の使用にあたっては添付文書をご確認ください)。ポイントは「体力中等度以上」「汗をかいていない」という2つの条件で、この条件に当てはまるかどうかが、葛根湯が体質・症状に合うかどうかの目安になります。当院は鍼灸院であり、葛根湯を含む漢方薬の調剤・処方・販売は行っておりません。
風邪の初期症状(悪寒・発熱・頭痛)
悪寒、発熱、頭痛、首や肩のこわばりといった、風邪のごく初期に現れやすい症状の緩和が期待されています。体を温めて発汗を促す働きにより、感冒の初期症状(悪寒・発熱・頭痛など)の緩和が期待されている処方です。承認されている効能・効果の範囲で、症状のケアをサポートする漢方薬と理解しておくとよいでしょう。
肩こり・筋肉痛
承認されている効能・効果の範囲で、肩こりや筋肉痛の緩和を目的として使われることもあります。なお、効果の感じ方には個人差があります。
鼻炎・鼻づまり
鼻づまりや鼻水といった鼻炎症状にも用いられます。特に、風邪のひき始めに鼻の違和感が出やすいタイプの人にとっては、風邪症状と合わせてケアできる処方として選ばれることがあります。
3. 葛根湯を飲むベストタイミングは「ひきはじめ」
葛根湯の効果を実感しやすいとされているのは、症状が出始めてから汗をかくまでの、ごく短い時間帯です。ゾクゾクとした寒気、首や肩のこわばり、体のだるさを感じたタイミングが、服用を検討するサインになります。
「ゾクゾク寒気+汗が出ていない」がサイン
「なんとなく寒気がする」「首の後ろがこわばる」「体がだるい」といった違和感を覚えたときが、葛根湯の出番といわれています。ポイントは、まだ汗をかいていない段階かどうかです。漢方の考え方では、体が寒さと戦っている初期段階で体を温める後押しをすることに意味があるとされており、症状の進み具合を見極めることが重要になります。
すでに汗をかいている・熱が高く長引いている場合は不向き
すでに汗を大量にかいている状態や、発熱から数日が経過して喉の痛みや黄色い痰など「熱がこもった」ような症状が出ている場合は、葛根湯が体質・病期に合わないとされることがあります。無理に発汗を促す方向の生薬を重ねると、かえって体力を消耗してしまう可能性があるため、症状が進行した後の服用は慎重に判断したほうがよいでしょう。
症状が治まらないときの目安
一般的には、数回服用しても症状の変化が感じられない場合や、2〜3日服用しても改善がみられない場合は、自己判断で飲み続けるのではなく、医療機関を受診して相談することが勧められています。高熱が続く、症状が悪化する、といった場合も同様です。
4. 葛根湯の正しい飲み方・用法用量
葛根湯はドラッグストアで購入できる一般用医薬品としても、医療機関で処方される医療用医薬品としても流通しています。どちらも基本的な飲み方は共通していて、食前または食間に、水またはぬるま湯で服用するのが基本とされています。
食前・食間に飲む理由
食前(食事の30分〜1時間ほど前)や食間(食後2時間程度が目安)といった、胃の中に食べ物が入っていないタイミングでの服用が推奨されています。これは、生薬の吸収が食べ物の影響を受けにくいタイミングだからと説明されることが多いです。飲み忘れた場合に食後にまとめて服用するのではなく、気づいたタイミングでできるだけ空腹に近い状態で飲むのが基本です。
成人・子どもの服用量の目安
製品によって差はありますが、成人は1日2〜3回に分けて服用する製品が一般的です。子ども向けには年齢に応じて用量が細かく設定されている製品が多く、パッケージや添付文書に記載された年齢区分と用量を必ず確認する必要があります。自己判断で大人用量を減らして子どもに飲ませる、といった使い方は推奨されません。
服用回数・期間の目安
「風邪かな」と感じた初期段階で、数回〜1〜2日程度を目安に服用し、様子をみるという使い方が一般的です。長期間にわたって漫然と飲み続けるものではなく、症状が改善しない場合や悪化する場合は、服用を続けるのではなく医師・薬剤師に相談することが大切です。
5. 葛根湯の副作用と服用時の注意点
漢方薬だから体に優しく副作用がない、というのは誤解です。葛根湯にも医薬品としての副作用があり、特に「甘草」「麻黄」という生薬に関連した注意点が知られています。
主な副作用(発疹・胃腸症状・不眠・動悸など)
報告されている副作用としては、発疹・発赤・かゆみといった皮膚症状、食欲不振・吐き気といった胃腸症状、不眠、動悸、発汗過多、排尿トラブルなどが挙げられます。服用後にこうした症状が現れた場合は、服用を中止して医師または薬剤師に相談することが推奨されています。
甘草に関連する「偽アルドステロン症」という注意点
葛根湯に含まれる甘草という生薬は、量や体質によっては「偽アルドステロン症」と呼ばれる状態に関わることが知られています。これは、体内のミネラルバランスが崩れることで血圧上昇やむくみ、手足の脱力感などが起こる状態で、甘草を含む複数の漢方薬を同時に服用している場合や、長期間・高用量で服用している場合に注意が必要とされています。むくみが急に強くなった、脱力感が続く、といった変化があれば、早めに医療機関を受診することが勧められます。
服用前に医師・薬剤師に相談したほうがよい人
高血圧、心臓病、腎臓病、甲状腺の病気がある人、妊娠中・授乳中の人、高齢の人、胃腸が弱い人、体力が著しく落ちている人は、服用前に医師または薬剤師への相談が推奨されています。また、他に薬を服用している場合や、他の漢方薬(特に甘草や麻黄を含むもの)と同時に使う場合も、飲み合わせの確認が必要です。
6. 葛根湯と麻黄湯・桂枝湯の違い、どう使い分ける?
風邪の漢方薬としてよく比較されるのが、麻黄湯(まおうとう)と桂枝湯(けいしとう)です。3つとも「風邪のひき始め」に使われる処方ですが、体力や発汗の有無によって向き不向きが分かれるとされています。麻黄湯の詳しい構成生薬・注意点は当院の麻黄湯とは?葛根湯との違いに関する記事でも紹介しています。
3つの漢方薬の使い分けの目安
一般的な目安として、体力が充実していて汗をかいておらず、頭痛や悪寒、肩こりを伴うタイプには葛根湯が選ばれやすいとされています。同じく体力があり、汗をかいていないものの、咳や関節の痛みが強く出ているタイプには麻黄湯が使われることが多いとされます。
一方、体力が落ちている、あるいはもともと汗をかきやすい体質の人には、比較的穏やかに働くとされる桂枝湯が向いているといわれています。このように、同じ「風邪のひき始め」でも、体力や発汗の状態によって選び方の目安が変わってくる点が漢方薬らしい考え方です。自分の体質・症状がどのタイプに近いか迷う場合は、薬剤師や登録販売者に相談しながら選ぶと安心です。
西洋の総合感冒薬との違い
市販の総合感冒薬の多くは、解熱鎮痛成分・咳止め成分・抗ヒスタミン成分など、症状ごとに個別の成分を組み合わせて、特定の症状を抑えることを目的に作られています。一方、葛根湯のような漢方薬は、複数の生薬の組み合わせによって体全体のバランスに働きかけるという考え方に基づいており、症状を個別に抑えるというより、承認されている効能・効果の範囲内で体調の変化を緩和する方向を目指す考え方だとされています。
どちらが優れているというものではなく、症状の出方や体質、生活スタイルに応じて選択肢として使い分けるという理解が現実的です。
7. 市販の葛根湯と病院で処方される葛根湯は何が違う?
「同じ葛根湯なのに、薬局で買うものと病院でもらうものは何が違うのか」という疑問はよく聞かれます。結論からいうと、名前は同じでも生薬の配合量や価格が異なるケースがあります。当院では漢方薬の販売・処方は行っておらず、以下は一般的な入手経路の違いの紹介です。
生薬の配合量の違い
一般用医薬品(市販薬)の葛根湯は、メーカーによっては医療用医薬品と比べて生薬の配合量が少なめに設定されていることがあります。これは、医師の判断を介さずに購入できる分、安全性を重視した用量設計になっているためと説明されることが多いです。
一方で、一般用医薬品の中にも、承認されている範囲で最大量の生薬を配合した「満量処方」と呼ばれる製品もあり、メーカー・製品によって配合量に幅がある点には注意が必要です。なお、配合量が多いことが必ずしもすべての人に適しているとは限らず、体質や症状に応じて選ぶことが大切です。
価格の違い
医療用医薬品として処方される葛根湯は、健康保険が適用されるため、自己負担額は比較的抑えられます。一方、市販薬は保険適用がなく全額自己負担になりますが、受診の手間なくすぐに入手できるという利便性があります。どちらが「お得か」は、通院にかかる時間や手間、症状の程度によって変わってきます。
どちらを選ぶべきか
軽い症状で、以前にも同じような症状で葛根湯を使ったことがあり、体質に合うとわかっている場合は市販薬で様子をみるという選択肢があります。一方、症状が重い、持病がある、他の薬を服用している、といった場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師に相談したうえで処方してもらうほうが安心です。
8. こんなときは葛根湯を避けて医療機関へ
葛根湯は体質や症状によっては服用を避けたほうがよい、あるいは自己判断せず医師に相談したほうがよいケースがあります。
高熱が続く・症状が重い場合
38度台後半以上の高熱が続く、強い喉の痛みで水分も摂りにくい、呼吸が苦しい、といった症状がある場合は、葛根湯で様子をみるのではなく、早めに医療機関を受診することが優先されます。こうした症状の背景には、風邪以外の感染症が隠れている可能性もあるため、症状が強い場合の自己判断は避けたほうが安全です。
持病がある人・高齢者・妊娠中の人
高血圧、心臓病、腎臓病、甲状腺の病気といった持病がある人、高齢の人、妊娠中・授乳中の人は、体への影響を考慮して、服用前に医師または薬剤師への相談が推奨されています。特に麻黄という生薬は、循環器系への影響が指摘されることがあるため、心臓に不安がある人は注意が必要です。
他の薬とすでに併用している場合
他の風邪薬や解熱鎮痛薬、他の漢方薬をすでに服用している場合は、成分の重複(特に甘草・麻黄の重複)による副作用リスクが高まる可能性があります。何かの薬を服用中に葛根湯を追加したいときは、必ず薬剤師に飲み合わせを確認してから服用するようにしてください。
FAQ(よくある質問)
Q1. 葛根湯は何回くらい飲めば効果を感じられますか?
A. 個人差がありますが、一般的には症状のひき始めに数回服用し、1〜2日程度を目安に様子をみる使い方が案内されています。数回服用しても症状に変化がない場合や悪化する場合は、服用を続けるのではなく医師・薬剤師に相談してください。
Q2. 葛根湯を飲むと眠くなりますか?
A. 総合感冒薬に含まれる抗ヒスタミン成分のような眠気を引き起こす成分は、葛根湯には含まれていないとされています。これは優劣ではなく成分構成の違いによるものであり、体質や併用薬によっては眠気以外の副作用が出ることもあります。体調に変化を感じた場合は服用を中止し、専門家に相談してください。
Q3. 葛根湯は毎日飲み続けても大丈夫ですか?
A. 葛根湯は風邪のひき始めなど、一時的な症状に対して短期間使うことを想定した処方です。長期間にわたって漫然と飲み続けることは推奨されておらず、体質改善などを目的に継続したい場合は、医師や薬剤師に相談したうえで判断することが勧められます。
Q4. 葛根湯と解熱鎮痛薬を一緒に飲んでもいいですか?
A. 併用について不安がある場合は、自己判断せず薬剤師に確認することが推奨されます。市販の風邪薬や解熱鎮痛薬と漢方薬を組み合わせる場合、成分の重複が起こることもあるため、購入時に薬剤師へ相談すると安心です。
Q5. 子どもや妊娠中でも葛根湯を飲めますか?
A. 子ども向けには年齢に応じた用量が設定された製品があります。妊娠中・授乳中の場合は、服用の可否について自己判断せず、事前に医師または薬剤師に相談することが推奨されています。
Q6. 葛根湯はコロナやインフルエンザにも使えますか?
A. 葛根湯は風邪の初期症状の緩和を目的とした一般的な漢方薬であり、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザといった特定の感染症そのものを治療・予防する効果は確認されていません。これらの感染症は、症状の軽重にかかわらず、周囲への感染拡大防止や適切な治療のタイミングの観点から、疑わしい症状がある場合は自己判断で葛根湯のみに頼らず、早めに医療機関を受診し、検査・診断を受けることをおすすめします。特に高熱が続く場合や症状が重い場合は、速やかな受診が必要です。
あらためて、当院は鍼灸院であり、本記事で紹介した葛根湯をはじめとする漢方薬の調剤・処方・販売は行っておりません。風邪のひきはじめに用いられる処方の考え方は東洋医学の伝統理論として鍼灸の背景知識にも通じるため、体系的な理解の一助として紹介しています。気血水・証の基礎理論は当院の漢方薬とは?証・気血水・選び方でもまとめています。
【本コラムの監修】
国家資格登録番号
はり師 第13878号
きゅう師 第24519号
・当院について
鍼灸治療では、頭の鍼と経絡治療を用いた本格的な鍼灸施術を行います。身体が本来持っている回復力を高め、バランスが崩れた身体が元に戻るためのお手伝いをします。局所の施術だけでなく、触診や視診を重視する伝統的な診察方法で全身の状態を観察し、身体と対話をしながら、日本人の体質に合わせた鍼灸治療を心掛けております。

